嚥下障害へのアプローチ

高齢者の口腔機能の改善は、高齢者において致死的感染症である誤嚥性肺炎を未然に防ぐとともに、高齢者の窒息、脱水および低栄養状態の予防に関わり、健康寿命の延長やQOL向上の観点からも極めて重要な課題である。
高齢者の口腔機能の評価法及び維持・向上法に関する研究(平成22年度長寿医療研究)の研究班では高齢者に対する簡単かつ確実な口腔管理の実現、摂食・嚥下機能の回復、QOLの向上を目的として、高齢者の口腔機能、摂食・嚥下機能障害の評価方法と回復方法の開発が試行された。
これらの結果、判明したいくつかの報告のうち、アロマパッチ®(黒こしょう)には唾液分泌促進効果がある可能性が示された。
また、黒こしょう(ブラックペッパー)による嚥下機能改善については様々な報告がみられ1)、嗅覚刺激によるアロマ療法を応用としたパッチにより嚥下反射の促進効果を期待した治療法が開発されている2)

  1.  海 老原覚, 原孝枝, 佐々木英忠,他, 黒胡椒刺激による嚥下反射改善法の開発. 日本老年医学会雑誌. 2007, 44(1), 137-137.
  2.  Munakata M, Kobayashi K, Niisato-Nezu J, et.al. Olfactory stimulation using black pepper oil facilitates oral feeding in pediatric patients receiving long-term enteral nutrition. Tohoku J Exp Med, 2008, 214(4), 327-332.

嚥下機能

嚥下障害の原因

嚥下障害の原因は器質的原因、機能的原因、心理的原因の3つに大別される。

器質的原因

先天異常、腫瘍、炎症、外傷、加齢性変化(歯の脱落)などによって舌や咽喉頭および食道の構造そのものが傷害されている場合。原因や疾患から分類する方法もあるが、たとえばリハビリテーションの見地から見ると、運動神経・筋群・硬組織といった出力系と感覚受容器・知覚神経といった入力系に分類する方が目的に適っているという[2]。

【嚥下障害の原因となる器質的疾患】

機能的原因

構造物の形態に問題がなくとも、それを動かす筋肉、神経に障害がある場合。頻度として多い脳卒中による嚥下障害や、頻度はやや少ないが神経変性疾患その他の神経筋疾患はここに含まれる。また先天異常でも形態異常ではなく、神経の異常あるいは筋力・筋緊張低下といった機能的な嚥下障害もある。

心理的原因

神経因性食欲不振症など摂食障害の他、認知症、うつ病などで食欲制御が傷害されている場合もここに含まれる。精神疾患を持たない人の有病率が6%であるのに対し、精神疾患患者の32%が嚥下障害を持っている[3]。窒息事故の割合もはるかに高い (一般で100,000人中0.66に対して、精神疾患患者では100,000人中85)[4]。認知症ではしばしば食事をしたことを忘れるが、食事をしたことを忘れても食欲制御が傷害されていなければ異常な量の摂食は困難である。研究は少ないが、嚥下造影検査の分析から認知症では84%の患者が何らかの嚥下障害を持っている、という報告がある[5]。

嚥下障害の治療

嚥下障害の一般的な予防・治療手段

ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害剤

高血圧治療薬。アンジオテンシンⅡの合成を抑えることでアルドステロン分泌を抑制する
ACEと共に、サブスタンスP分解酵素の阻害剤としても作用する。
副作用が少ない薬剤として知られているが、高血圧患者以外には使いづらい

塩酸アマンタジン

A型インフルエンザウィルスの脱殻を阻害。
ドーパミン放出を促すパーキンソン病治療薬。
副作用は睡眠障害や幻覚が知られている。

カフェイン・テオフィリン

脳内アデノシン受容体アンタゴニスト。脳内アデノシンアンタゴニストはドーパミン作動性神経系と共存するため、カフェイン・テオフィリンの摂取は嚥下障害を改善する

口腔ケア

加齢と共に口腔内の衛生状態は悪化する。
口腔内の雑菌を減らすことで、誤嚥した際の肺炎発症リスクを低減できる。

食事の物性をコントロール

食物(特に液体)の咽頭通過時間を調整するため、とろみを付ける。

食中・食後の姿勢

頭部を後屈すると頸部が過伸展を起こし、舌骨と喉頭が持ち上がらない。結果、誤嚥の危険性が高くなり、口の広い食器・カップを用いて後屈しなくて良いようにする。
食後は胃食道の逆流が起こり易くなるため、食後2時間は寝たきりの老人でも座位を保つことで逆流減少を抑える。